Voice 010. 心理職の常勤雇用の必要性
匿名希望
大学の学生相談領域で働いている、中堅の臨床心理士です。常勤の有期雇用ですので、もうすぐ任期が終了するため、この数ヶ月間、就職活動をしていますが、雇用状況の厳しさを痛感しています。公募は非常勤がほとんどで、常勤と同様の勤務時間にもかかわらず時給や日給による雇用もあり、しかも非常に低賃金の公募が多いことに改めて愕然としています。行政のDV相談や虐待相談など、とても重い責任が伴う職務でさえも、時給2000円に満たない非常勤職であるなど、責任を持って働きにくい劣悪な雇用条件がたくさんあります。非常勤職においては、学会や研修会への参加費用が個人負担であることを考えると、心理職として経済的に自立できる生活を送っていく厳しさを改めて実感しています。
昨今の大学における教職員の雇用は、心理職に限ったことではありませんが、新しく施行された労働契約法上で、無期雇用への転換要請をめぐる労使問題を回避するために、大学の内規により同じポジションへの再応募が厳しく制限され、長くて5年間で雇い止めとなることがほとんどです。
私は、これまで何度か有期雇用期間終了前の就職活動を繰り返しており、先の見通しが全く立ちません。競争率の高い就職活動中は、目の前の仕事に集中することができず、とても疲弊します。クライエントにとっても、雇用する側にとっても、良い状態であるはずがありません。公認心理師の国家資格化により、さまざまな組織において心理職が雇用されやすくなり、経済的に安心して生活できるレベルにまで、雇用状況が改善することを願っています。
組織で働く心理専門職は、常勤で責任の伴う雇われ方をされ、専門職として育てられていくべきだと思います。私自身が、狭き門である常勤職への就職を目指すのは、経済的な面も大きいですが、中堅となった現在、組織に対して責任の伴う仕事をしていきたいからです。
最近、大学における学生相談がアウトソーシングされるケースも出てきたようです。心理職が受動的な姿勢で相談室を訪れる学生個人へのカウンセリングを行うのみで、守秘義務を盾に学生の抱える問題について組織と全く連携しないのであれば、学生相談業務をアウトソーシングして、派遣の心理職に任せる方が、大学経営が厳しくなっている昨今、より経済的だと判断されても仕方ありません。しかし、大学内のカウンセリング部署に相談に来る人は、純粋に個人的な問題を相談に来るケースばかりではなく、大学の組織や集団との軋轢に苦しんでいるケースも多く、問題はクライエント個人ではなく、組織構造や組織のルールにあることも多いのです。大学に限らず、組織で働く臨床心理士は、組織の文化や体制、問題解決に向かうための組織への働きかけのルートを知り、組織に対するアセスメントを行い、対処方法を提言し、問題解決に向かって、組織に効果的に働きかけなければなりません。そのような業務を行うには、しっかり責任を取ることができる、常勤のポジションに就き、組織の中で揉まれながら、組織へのアセスメントや働き掛けを行う能力を伸ばしていく必要があります。
スクールカウンセラーについては、現段階では各学校への常勤配置は難しいでしょう。しかし、教育委員会や、あるいは教育委員会から委託を受けた公的な外部組織に常勤雇用されて、そこから地域内の学校に配置されるようにすれば、いじめ問題、子供の安全を脅かす不審者の出現、学校への脅迫など、学校という組織全体にかかわる問題が発生したときに、問題解決に取り組むチームの一員として、より活躍できるようになると思います。
まずは心理職の国家資格化が、組織において心理職が活躍できるようになる第一歩となると思います。公認心理師法案の早期成立を願っております。