Voice 009. 常備薬のような存在へ

匿名希望

 このごろは大きな事件や災害が起こるとこころのケアが必要といわれ、臨床心理士が派遣されたというニュースを聞くようになりました。こころのケアという言葉はずいぶん身近になってきましたが、それを担う心理職や臨床心理士はまだまだ特別な存在ではないでしょうか。

 緊急時の対応は、何もない平常時から避難訓練をしたりマニュアルなどを備えておくからこそいざという時に役立つものです。心理職や臨床心理士もそのような感じで、日頃から身近にいて活動していることが今後はますます重要だと思います。例えていうならば、常備薬のようにいつも手元にあって、いざという時にさっと取り出せて使えるような、そういう存在になることが必要だと思います。

 私は精神科で心理職として働いていますが、精神科に医師や看護師、精神保健福祉士は必ずいても、臨床心理士がいない病院もあります。他の診療科はなおさらです。それは心理職が役に立つ職種だとしても、国家資格ではないために施設基準に明記されないことが大きな要因です(思春期病棟や精神科デイケアなど一部には臨床心理技術者という記述もありますが)。精神科だけでなく小児科や緩和ケアなどでも心理職がいるのが当たり前になって、患者さんだけでなく介護するご家族のしんどさやそこに関わる職員の心理的な負担を和らげる存在になっていきたいものです。

 医療現場以外でも同じ状況ではないでしょうか。学校には保健室があって養護教諭がいるのが当たり前ですが、スクールカウンセラーは必ずいるとは限りません。スクールカウンセラーがいつも学校にいて、普段から顔見知りになっていて、何気ない雑談をしていればこそいざという時にも相談しやすいのではないでしょうか。あるいはスクールカウンセラーから生徒や職員の変化に気付いてさりげなく声をかけることができるかもしれません。  

 自然な形で適切な時期にこころのケアが提供されるには、私たち心理職が常備薬のような存在になっていて日常的に信頼できる関係性をつくっておくことが欠かせません。そのためには心理職が国家資格になり、国のシステムや施策といったものに公共性と社会的責任を持って組み込まれる必要があります。医療や教育だけでなく、地域生活支援センターや養護施設、矯正施設や企業、といった様々な領域で日ごろから一緒に働けるようになることが大切です。必要な時やそれ以前に必要かどうか迷うようなときでさえ気軽に声をかけてもらえるようになれば、特別にこころのケアをしなくても予防的に解決できることも多いでしょう。

 常備薬は手元にあることが重要で、あっても使わずに済めばそれでもいいのです。そして薬は医薬品として認可されることが必要なように、まずは私たちも国から認可され、日常的に使ってもらい、慣れ親しんだ存在になることが重要です。そして最も重要なことは、認可後も“役に立つから手元においておきたい”と評価されるような仕事ができるかどうかではないでしょうか。