Voice 004. 一歩一歩、力を合わせて
匿名希望
精神科のクリニックで働いている臨床心理士です。私たち臨床心理士を含めた臨床心理職の国家資格、公認心理師法案の成立を望んでいます。国家資格化については、慎重・反対の立場の人も私の周囲には多くて、推進の立場で発言するのは難しい場面も多いため、このような匿名で声なき声を拾ってくれる場所があることに感謝します。
私の職場では、カウンセリングを必要とされる方は多いのですが、臨床心理士が足りないなどの事情から、多くの方をお待たせしている状態です。臨床心理士は非常勤勤務の人がほとんどということもあり、数年で退職せざるを得ない人も多いです。カウンセリングでは、時間をかけて信頼関係を築く中で心に向き合う作業をしてもらい、症状改善などをしていく必要のあることも多いので、これは困ったことです。カウンセリング以外にも、デイケアや心理アセスメント、多職種でのカンファレンス、訪問支援など、臨床心理士の役割が期待される場面はありますが、十分に対応できていません。国家資格化でこれらが全てすぐに解決するわけでありません。診療報酬などの制度の中で公認心理師をどのように位置付けてもらうか、そのための働きかけをこれからやっていくことになります。国家資格化はゴールではなくてスタートなのです。
国家資格化については、推進の立場の人が情報を公開せずに拙速に進めているという批判を聞くことがあります。公認心理師法案成立を目指すことはいったんストップして、さらに話し合いをして民主的に進めようと提案する人もいます。それらの批判、提案を全て否定する気持ちはないのですが、「実際のところどうなのか?」ということは問いかけたいと思います。
国家資格化については、何十年も前から議論が積み重ねられてきています。情報は日本臨床心理士会の雑誌や電子版速報などに掲載されています。代議員会決議など民主的な手続きもなされています。これは私の個人的な体験ですが、国家資格化についての様々な不安や疑問点を、推進の立場の人にお尋ねすると、いつも丁寧に聞いてくれてくださり、分からないことは教えてくれました。
一方で、慎重・反対の立場の人と話すと、私の言葉には耳をお貸しいただけず頭ごなしにお叱りを受けることが幾度となくありました。ツイッターなどインターネット上でも、慎重・反対の立場の人が推進の立場の人をあまりきれいではない表現で攻撃するのを目の当たりにして胸を痛めることがしばしばあります。慎重・反対の立場の人からは、公認心理法案成立を止めたとして、代替案やそれを実現するための他団体との交渉も含めた具体的な方策など未来を見通せるような話は出てきません。慎重・反対の立場の人の中には、博士号レベルの質の高い資格を求める人もいれば、いっそ質の低い資格ができたらいいと言う人までいて、何が何やら分かりません。
公認心理師法案を見ると、いくつかの不安や懸念を抱くのも事実です。しかしどうしようもない大問題や欠陥のある法案では決してありません。国の法律です。私たち臨床心理士の100%思い通りの国家資格を好きなタイミングで作りたい(そうでないなら反対する)というのでは、やや傲慢ではないでしょうか。様々な人の意見を調整して出来上がる法律ですから、実際に運用する中で課題が見えてくるのは当然です。魔法のように劇的に素晴らしいものを一気に作り出すのではなくて、一歩一歩地道に歩いていく。一人で走ってしまうのではなくて、誰かと一緒に歩いていく。カウンセリングをはじめ私たち臨床心理士の仕事は、そういうものだと思います。国家資格化とその後の様々な課題への対処もまた同じように、一歩一歩、皆と力を合わせて進めていけたらと思っています。