ここでは、公開されている厚生労働省の資料に基づき、公認心理師の受験資格についてCPNが独自に情報収集を行ってまとめた説明を提示します。受験資格の内容が確定するのは、平成29年9月15日までに行われる公認心理師法及び省令等の施行後になるため、現時点では不確定な要素があります。未確定の段階で独自の情報提供を行う理由は、施行日までに準備をしておかないと受験資格を得られない人が出てしまうと考えられるからです。以上の経緯をご理解の上、このCPNガイドを各自の責任で参考にしていただければ幸いです。
【0】はじめに
公認心理師の受験資格について現在知ることができるのは、「公認心理師法」(附則を含む)と、「公認心理師カリキュラム等検討会 報告書」と題した資料です。「報告書」を読みやすくまとめた「概要」も作成されています。いずれも厚生労働省のホームページから見ることができます。
以下の説明の中では、便宜のため、「公認心理師法」を「法」、公認心理師法の附則を「附則」、上記の「公認心理師カリキュラム等検討会 報告書」を「資料」と略します。また、「大学院・大学・専門学校」をまとめて言う時には「大学院等」とし、「厚生労働省」は「厚労省」、「文部科学省」は「文科省」、「公認心理師カリキュラム等検討会」は「検討会」とします。
【1】受験資格の全体像
公認心理師の受験資格は、資料34ページ「参考3 公認心理師の資格取得方法について」にまとめられています。この見取り図には、AからGまで7通りのルートがあります。
このうち、AとBは、公認心理師法の施行後に大学院等で新たに開講される公認心理師の正規カリキュラムを修めた人のルートです。早くても平成30年度からしか正規カリキュラムの開講が始まらないと考えられるため、このAルートとBルートの人が試験を受けるのは数年後からということになります。
Cは、海外の大学院等を修了していたり、海外の心理職の資格を持っていたりする人のためのルートだと言われています。海外での教育や資格が公認心理師の受験資格に相当するかどうかについては、厚生労働省・文部科学省の担当者がケースバイケースで判断するとのことです。そこで、Cルートについては、ここではこれ以上の説明は行いません。
現在すでに心理職として仕事をしている人や、大学院等を修了した人、または在学中の人に関係するのは、DからGまでの4つのルートです。これらは「経過措置」と呼ばれており、現在すでに仕事をしていたり学んだりしている人たちにもできるだけ広く公認心理師の受験資格を与えるための特例ということになります。
CPNガイドでは、この7つのルートを以下のように整理して、各ルートがイメージしやすいように名称をつけてみました。
<経過措置ルート>
(D)「旧院ルート」(附則第2条第1項第1号及び第2号)
(E)「旧学部+新院ルート」(附則第2条第1項第3号)
(F)「旧学部+新実務ルート」(附則第2条第1項第4号)
(G)「現任者ルート」(附則第2条第2項)
<正規ルート>
(A)「新学部+新院ルート」(法第7条第1号)
(B)「新学部+新実務ルート」(法第7条第2号)
(C)「海外ルート」(法第7条第3号)
これから大学や専門学校に入学・編入学しようと思っている人は、<正規ルート>で受験資格を取得することになります。すでに大学院等に入学または修了している人や、心理職としての仕事をしている人は、<経過措置ルート>のどこに自分が位置づけられるのかを調べてください。早ければ第1回の試験から受験できるチャンスがあります。CPNガイドではこの経過措置ルートについて詳しく見ていきます。
【2】経過措置ルート
経過措置は、附則第2条に「受験資格の特例」として規定されています。資料では、22ページから29ページまでが経過措置の説明になっていますが、1ページから21ページにも経過措置ルートの理解に必要になる部分があります。まず、受験者数が多いと思われる「現任者ルート」から見てみます。
(1)現任者ルート(Gルート)
現任者ルートは、資料27ページから28ページに提示されている条件を満たした場合に受験資格が与えられることになるようです。それによると、
① 「省令で定める施設」において、
② 「法第2条第1号から第3号までに定める行為を業として5年以上」行っており、
③ 業務を行っている「証明書」が提出でき、
④ 施行日に休業中の場合は、休業してから一定以上の期間が経過しておらず、
⑤ 「現任者の講習会」を受験した場合、
という5つの条件が揃った場合に、公認心理師法の施行後5年間に限り受験できるものとなっています。受験可能な期間が制限されているのは、この現任者ルートだけであることにご留意ください。以下に5つの条件のそれぞれを詳細に見ていきます。
①「省令で定める施設」がどのような施設を指すのかと言うと、資料27ページ「1.省令で定める施設について」に「大学院における実習施設として定める施設に準ずる」とありますので、資料19ページから20ページにある「法第7条第1号及び第2号に規定する大学及び大学院における必要な科目のうち実習を行う施設の候補」が現任者を認定する施設の基準になると考えられます。その施設に指導者がいるか、どんな実習プログラムがあるかは、現任者の受験資格には関係がないそうです。実習施設の基準に含まれない私設心理相談室等の取り扱いについては資料27ページに「業として行った行為の内容や勤務の状況が客観的に分かる場合」とあるのをご参照ください。
②次に、現任者であると認められる業務は、法第2条第1号から第3号までの業務を指します。法から引用しますと、
「一 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること。
二 心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
三 心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。」
以上の3種類です。現任者として認められる業務には、法第2条第4号「心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行うこと。」は、含まれないということに注意してください。大学の教員等が受験したい場合には、単に心理学を教えているというだけでは受験資格がなく、スーパービジョン(グループでも可とのこと)や心理支援の実習指導等の間接的心理支援業務でよいので、週1日以上何らかの心理支援の業務を学内外で行っていることが必要だそうです。
「5年以上」については、資料27ページ「2.期間について(5年の換算方法)」をご参照ください。「常態として週1日以上」の勤務を通算5年以上行っていることが必要とのことです。休業した期間も含めて計算が必要な場合があります。計算方法は、資料29ページ「法附則第2条第2項に定める者(いわゆる現任者)の期間の考え方について」にまとめられているのを見るとわかりやすいです。
③これらの業務経験については客観的な証明書に相当するものが必要とされるようです。資料27ページには「証明権限を有する施設の代表者による証明書の提出を求めることとする」とあります。また私設心理相談室等の場合は「例えば、登記簿謄本等、客観的に業務をしていることが分かるものを併せて提出することを求める」とあります。つまり、自分で業務をしていると申告するだけでは不足で、何らかの形で第三者から客観的にどんな業務をどれだけの期間行っているかを証明される必要があるということのようです。
④「5年以上」を換算する場合の、休業期間の取り扱いについては、資料27ページ「4.当該行為を業として行わなくなってから一定以上の期間が経過している者の取り扱いについて」をご覧ください。現任者は基本的には法の「施行日」に現に業務を行っている必要がありますが、公認心理師の場合、特例として休業してから「5年を経過しない」場合にも受験資格を与えることにするようです。これは、育児休業等のやむを得ない理由で休業している現任者にも受験資格を与えるための措置であると考えられます。先ほど「5年以上」の換算のところで示した資料29ページ「法附則第2条第2項に定める者(いわゆる現任者)の期間の考え方について」を見ると計算の仕方がわかりやすく図示されています。
⑤第1回の現任者講習会は法の施行後、第1回試験の前に行われる予定です。その先も現任者の経過措置期間の間は毎年講習会が開かれることになると考えられます。その内容等は、資料28ページ「5.いわゆる現任者の講習会について」に説明されています。講習会は「30時間程度」とありますが、それが土日を使うのか、1週間通しになるのか、オンラインを用いるのかなどの詳しい実施方法は未定のようです。全国どの都道府県からでも受講しやすくなることが望まれます。
現任者ルートでは、以上の5つの条件が揃ったら受験資格が得られるようです。ということは、第1回の試験が「5年以上」を満たさないために受験できない人も、期限の法施行後5年までに「5年以上」に達すれば、その時点で受験できることになります。たとえば、法の施行日に仕事をして1年目の人は、現任者の経過措置の最後の1年だけ受験できるということになるかと思います。
最後に、とても大事な注意点ですが、この現任者ルートでの受験には、学歴や資格は問われません。
(2)旧院ルート(Dルート)
「旧院ルート」が適用されるのは、施行日までに必要な科目を修めて大学院を修了している場合か、施行日に大学院に在学中で必要な科目を修めて施行日以後に修了するか、いずれかの場合です。つまり、公認心理師のカリキュラムが開講される前の大学院で公認心理師に必要とされる大学院科目の一部を修めていれば受験できるルートです。
この旧院ルートの必要科目については、資料22ページからの「法附則第2条第1項の省令で定める科目について」以下の説明にあります。23ページ上から5行目を見ると「合計6科目以上相当」とされています。その6科目の数え方については、資料25ページ「受験資格の特例について①」に詳しく書かれていますのでご覧ください。特に、「①保健医療分野に関する理論と支援の展開」に相当する科目が必須であること、この①を含んで、「①保健医療」「②福祉」「③教育」「④司法・犯罪」「⑤産業・労働」の5分野のうちから合計3科目以上に相当する科目が必要であることに注意が必要でしょう。
旧院ルートには、その大学院修士課程の修了と、この「合計6科目以上相当」以外の条件はありません。つまり、講習会の受講も必要なく、学部の専攻が何であったかも問われません。また、このルートの経過措置には期限がないので、何回でも受験することが可能のようです。ただし、法の施行日以降に大学院に入学した場合には、この特例は適用されないことに注意が必要でしょう。施行日以降の大学院は正規ルートの新カリキュラムになります。
(3)旧学部+新院ルート(Eルート)及び旧学部+新実務ルート(Fルート)
(ⅰ)第1段階 旧学部の取得単位の取扱い
これは、法の施行日以前に大学(あるいは準ずる専門学校)に入学していた場合に適用される特例です。卒業は施行日以前でも施行日以後でもかまわないことになっています。つまり、学部の既卒者または在学生ということです。旧学部で必要な科目の説明は資料23ページ「②法附則第1項第3号及び第4号までの省令で定める科目」云々のところにあります。
この23ページの説明によると、施行日以前に入学した大学で、公認心理師の正規の学部の必要科目25科目のうち「合計12科目以上相当」の科目を修めて卒業した場合、あるいはそれに準ずる場合(準ずる場合の説明は資料31ページ)にこの「旧学部+新院ルート」または「旧学部+新実務ルート」が適用されることになります。「合計12科目以上」に相当する科目については資料26ページ「受験資格の特例について②」をご参照ください。
「旧学部+新院ルート」と「旧学部+新実務ルート」は2段階に分けて考えることが必要です。第1段階は、以上の説明の通り、施行日以前に入学した大学で「合計12科目以上相当」の科目を修めること、第2段階は以下のように2つのルートに枝分かれします。
(ⅱ)第2段階・その1 「旧学部+新院ルート」(Eルート)
第2段階の1つめを「旧学部+新院ルート」と呼びたいと思います。これは、施行日以前に入学した大学で「合計12科目以上相当」を修めた人が、施行日以後に法第7条第1号の正規ルートの大学院に入学して必要科目(正規ルートなので10科目になります。資料12ページ参照。)を修めて修了するというコースです。
現在学部に在学中か、すでに卒業している人は、まず、学部の「合計12科目以上相当」が足りているかを確認してください。そして、来年度以降の大学院選びに際して公認心理師の正規カリキュラムが用意されている大学院であるかどうかを確認して受験してください。来年度以降の大学院進学者については、学部で「合計12科目以上」が足りていなければ、公認心理師の大学院に行っても受験資格が得られません。また、学部で「合計12科目以上相当」が足りていても、進学する大学院が公認心理師のカリキュラムを開講しなければ受験資格が得られないことになると考えられます。各大学院の方針が2017年夏の段階ではまだ錯綜しており、大学院の受験生のみなさんは十分な情報収集をされることをお勧めします。
(ⅲ)第2段階・その2 「旧学部+新実務ルート」(Fルート)
次に、2つめを「旧学部+新実務ルート」と名付けて見ていきます。このルートは、これまで述べた通り、施行日以前に入学した大学で所定の「合計12科目以上相当」を修めて卒業することが第1段階です。そして、第2段階は法第7条第2号の「実務経験」に従事することです。この「実務経験」は、現任者の経過措置における業務のことではなく、法施行以後に整備される第7条第2号に規定された正規の「実務経験」のことで、その解説は資料21ページ「[5]法第7条第2号に係る実務経験について」にあります。(※この「実務経験」の内容は、検討会で議論が集中した部分であり、今後も何らかの変更があるかもしれないため特に注意が必要です。)
検討会の資料通りに省令が制定されるとすると、「旧学部+新実務ルート」は、
①施行日以前に入学した学部で「合計12科目以上相当」の科目を修めて卒業した後、
②省令で定められた施設において、
③2年以上、
④定められた指導者のもとで、プログラムにしたがって、
⑤法第2条第1号から3号の業務を行う
以上の5つの条件が満たされた時に受験可能であると考えられます。
留意点は、学部を卒業してすでに何らかの心理業務に従事している人は、この「旧学部+新実務ルート」ではなく「現任者ルート」での受験になるだろうということです。正規の「実務経験」の施設は法の施行以後に整備されていくので、今はまだありません。つまり、このルートの「実務経験」は施行日以後に指定された施設に就職して行うものを指していると考えられます。ここのところが公認心理師の受験資格を考える上で解釈の難しいところだと思います。
(ⅳ)留意点
この「旧学部+新院ルート」も「旧学部+新実務ルート」も、公認心理師試験の受験には期限はなく、何回でも受験が可能です。
【3】正規ルート
正規ルートは、はじめにも書いたように、平成30年度以降に新カリキュラムが各大学院等で整備されてから出発します。以下に資料の該当ページを示します。
「新学部+新院ルート」(Aルート)については、資料12ページ「[4]大学及び大学院における必要な科目」と13ページから16ページの「大学における必要な科目に含まれる事項の説明」、17ページから18ページの「大学院のおける必要な科目に含まれる事項」、および19ページから20ページの「法第7条第1号及び第2号に規定する大学及び大学院における必要な科目のうち実習を行う施設の候補」を参考にしてください。
また、「新学部+新実務ルート」(Bルート)については、資料12ページから20ぺージに加えて、資料21ページ「[5]法第7条第2号に係る実務経験について」も参考にしてください。
これらの正規ルートについては、法施行後に、順次、各専門学校・大学・大学院、各実務機関が、公認心理師に対応したカリキュラムやプログラムを準備して広報していくことになります。受験生や保護者や進路指導をされる方々は、十分に各専門学校・大学等の説明を聞いてください。
公認心理師に必要な学部の25科目の履修が、法の施行後に大学または専門学校に入学する人たちからは必ず必要になります。従来の臨床心理士は学部の専攻や取得単位は問われませんでした。公認心理師では、学部(大学または専門学校)の単位は全員に必須です。ただし、科目の履修が必須ということなので、心理学科以外の専攻の人でも、自分の専門の科目以外に公認心理師必修の25科目を単位取得すれば受験資格への道が理論的にはあることになります。そのような履修の仕方が可能かどうかも各大学・専門学校に問い合わせてください。
【4】まとめと留意点
現在すでに心理職として仕事をしている人は、「現任者ルート(Gルート)」で受験できる可能性が高いので、まずそれを確認してください。また、現任者ルートで受験できる人の中には、同時に「旧院ルート(Dルート)」での受験も可能な人もあると思います。その場合は、どちらのルートから受験するかを各自が選ぶことになるのではないかと思われます。基本的に「現任者ルート」からの受験が可能であれば、それ以外のルートについて検討する必要はないでしょう。ただし、現任者ルートは5年間の期限があるので、期限内に合格しなかった場合には、現任者ルート以外からの受験が必要になります。
経過措置ルートの受験資格についてひとつ大事な注意点があります。検討会での厚労省の担当者の説明によると、すでに学部を卒業している場合あるいはすでに大学院を修了している場合には、足りない科目を科目履修等で補うということはできないのだそうです。つまり、大学院で所定の「合計6科目以上相当」、学部で所定の「合計12科目以上相当」の単位が取得できていない時、学部卒業後あるいは大学院修了後に何らかの方法で「科目だけ」を履修して補うことはできないと説明されました。
つまり、現在学部または院に在学中の方々は、必要な科目が取得できているかをよく確認しておく必要があります。卒業してから「足りなかった」と気づいても遅い可能性があります。
現任者ルートの条件が揃わない人は、次に、旧院ルートで受けられるかどうか調べてみてください。現任者ルートも、旧院ルートも条件が揃わない場合には、旧学部の取得単位が足りているか調べてください。その場合には、公認心理師法の施行後に、新大学院に入りなおすか、新実務機関でプログラムを受けるかのどちらかをすれば受験資格が得られると考えられます。すでに就職している実務機関が正規ルートのプログラムを整備する場合には、そこで仕事を続けてプログラムを2年以上受ければ受験資格が得られると考えられますが、それについては各自で確認が必要だと思います。
現任者ルートの条件が揃わず、旧院も、旧学部も単位が足りない場合には、残念ですが、正規ルートの新学部(大学あるいは専門学校)への入学あるいは編入学からやり直しになるようです。今のところ公開されている情報からは、そのように読み取れます。
以上